ケーキ屋さんの開業について、スイーツワンダーランドアラキオーナーシェフ荒木氏に必要なこと、成功のポイントを聞きました。将来ケーキ屋さんを開業したい、開業予定の方はぜひ参考にしてください。
監修者:荒木宏伊朗
スイーツワンダーランドアラキオーナーシェフ。8年連続増収増益の繁盛店を経営。都内洋菓子店、ルクセンブルク、フランスで修行後、生クリームの中沢乳業シェフパティシエに就任。その後、コンサルタントとして国内外で2000件以上の商品提案。講習会の経験から導きだされた、素材研究、コンセプトワーク、顧客目線など独自のお菓子開発理論をもつ。スイーツライフアカデミーで次世代を担うパティシエの育成にも力を注ぐ。
ケーキ屋さん開業のために必要なものは?
・資金
ケーキ屋、パティスリーの開業に必要な資金は、1000万円以上かかることが通常です。
信用保証協会や日本政策金融公庫の創業支援を使って、融資を受け開業資金を用意することがほとんどで、創業にかかる費用総額の3分の1~2分の1位の自己資金が必要になることが一般的です。
費用の内訳としては
・店舗取得費
・工事費用(内装、外装、電気工事等)
・厨房設備
・店舗装飾、備品、消耗品
・包材
・WEB関係(HP、通販サイトなど)
・運転資金
この中で一番大きな部分が工事費用。一般的な目安として、1坪あたりの工事費用は、店舗部分で50~80万円。工房部分で20~30万円ほど。動力などの電気工事やファサードと呼ばれる店舗外観の工事費用もかかります。
はじめは、厨房機器を中古で揃えたり、リースを利用したり、工夫して費用を抑えたいところですがタイミングが合えば、良質の居抜き物件や既存店舗を引き継ぐという選択肢もあります。
・資格
ケーキ屋、パティスリー、カフェなどのスイーツ店を開業するときに必要な資格は「食品衛生責任者」。もちろん、上位資格である「調理師」「製菓衛生師」の資格があれば食品衛生責任者の資格は、保険所が開催する講習会を受講することで取得できます。受講費1万円程度、1日で取得可能です。しかも、どこで取得しても資格は一生涯、日本全国で有効です。
1店舗ごとに資格保持者を定めなければいけないので、時間があるうちに取得することをお勧めします。
・経験
30年前の常識では、3~5年修行を積めば、2代目として実家に戻ったり独立する人もたくさんいました。しかし今では、ケーキと言っても、ショコラ、チーズケーキ、プリンなどの1種類だけの専門店が当たり前になるほどレベルが上がり、業界が成熟し、お客様から求められる知識、技術は何倍にもなっているにもかかわらず、働き方改革で労働時間は減少し、技術を身に付ける機会は少なくなっているので10年働いても独立開業に必要な仕事を覚えることができないケースが増えてきました。
販売方法も、店舗だけでなく、WEB通販が一般化し、チラシしかなかった集客の方法もSNSなど無数の選択肢が増えました。
どこまで経験を積めば独立できるのか。判断が難しくなったのです。独立したいと思えば、その時がタイミングです。判断が難しいのですが、時期として「試行錯誤を高速回転させる25歳までの若い独立」と「自分の得意分野を明確にした40歳での集大成としての独立」があると思います。
・店舗
店舗物件は、「売れそうな場所だから」「人通りがある」「家賃が安い」などの理由で選んで決めている人が多数派ですが「自分達のやりたいことが実現できる店舗」を選ぶようにお伝えしています。
まず「自分たちのやりたいこと=コンセプト」をでわかりやすい言葉で説明できるように決めてから不動産屋さんに相談しましょう!
物件決定までの大きな流れはこちらです。
1.コンセプト決定
2.インターネットで店舗物件などを調べる
3.不動産屋さんに相談する
4.たくさんの物件資料を見る
5.内見、周辺調査
6.検討、利益計画確認
7.物件決定
とにかく数多くの物件資料に目を通して、相場感、地域感、設備の違い、家賃の違いを肌で感じてください。たくさんの物件を見ていくことで、スケルトン物件、居抜き物件、などの良し悪しなどもわかるようになってきます。自分たちのコンセプトを実現できる物件と出会えるまで、たくさんの不動産屋さんと話をして、たくさんの物件を見る必要があります。
実際に私は3000軒ほどの物件資料に目を通しましたが、ここが独立開業準備で一番時間と足を使う場面だと思います。
・手続
ケーキ屋、パティスリーを開業するために様々な手続きがありますが、落ち度があると万が一事故や食中毒などが起こった場合に保険が降りない場合があるなど取り返しのつかない事件へ発展することがあるので、所轄の機関と相談しながら進めていきましょう。
取り扱う商品、販売形式によっても必要な許可が変わりますが今回は「ケーキをキッチンで製作しテイクアウトでも販売。イートインスペースもある。」定番のスタイルの必要な手続きは、下記の通りです。
1.「食品衛生責任者取得」
調理師の資格があれば必要ありません。
2.「防火管理者」
小さなカフェをオープンする場合は必要ありませんが、30人以上の収容できる店舗では必要となります。特定の講習会を受講する必要があるので、物件が決まりそうな時点で所轄の消防署に相談することをオススメします。
3.「飲食店営業許可証」「菓子製造業許可証」
工房設備のレイアウト、店舗設備資料等の提出書類も多く、地域ごとに認可基準も違うので必ず着工前に、設計士さんと共に事前に管轄の保健所へ相談に行っておきましょう。
4.「防火対象物使用開始届出書」
スケルトン状態から火器を使う厨房設備を設置したり、居抜き店舗でも、火器を使用する厨房設備の移動がある場合には所轄の消防署へ届け出が必要です。現状確認の意味合いが大きく、使用開始7日前までの届け出が必要です。
5.「開業等届出書」
すべての独立開業に必要な開業届。所轄の税務署に提出が必要です。個人で開業の場合は、地域の青色申告会に相談してみると良いでしょう。税務労務手続きの支援をしてくれます。税理士が決まっているようであれば税理士でいいと思います。
ケーキ屋さんの開業を成功させる上で大事なポイント
・商圏
物件を決めるときに、重要なのが商圏です。商圏とは、店舗を構えたときに、そのお店に見込めるお客様の住んでいる範囲を意味します。
「実際に、自分たちのお客様が、どれだけいるのか。」これを目に見える形にすることで将来の売上予測を立てることができ自信を持った経営やより価値の高いスイーツ、サービスをお客様へ届けることができるようになります。
商圏を分析する方法は、いくつかあります。
1.人口統計調査で地域ごとに性別、世代、人数を把握する
世帯数、年齢、性別だけでなく、人口の増減もわかるため、5年後、10年後にどのように変化していくか予想しやすくなります。
2.消費者のライフスタイル分析
世帯収入、消費動向など、そのエリアに住んでいる人たちが普段どんな生活をしているのか分析していきます。近くのスーパーや不動産屋さん、他業種飲食店、金融機関などに話を聞いたり、どんなものが売れているかを見ていくとその街の傾向が見えてきます。
3.同業種、競合店の分析
同じ商圏に同業種、競合店がある場合は、必ず商品を購入して売れ筋商品、客層を調査しましょう。自分の独自化すべき点がより明確になり、より自信を持てるようになります。
4.移動手段によって商圏を設定する
「徒歩 15分圏内」「自転車 20分圏内」「車 30分圏内」など、移動手段によって想定商圏を変化させて商圏を設定すること街の見え方の視野が広がります。
・利益計算
開業前に年間計画をしっかり立てておきましょう!
利益計画というと、難しそうに感じますが、売上から材料費、人件費、家賃などの経費を引いていくら利益が残るのか。を見やすくわかりやすくまとめた表です。作っていく中で、数字に感覚が理解できるようになりますし、融資の際は必ず必要となります。
数字が苦手だからとか言って、適当にやっていると、知らない間にたくさんの資金が流れ出ていきますから・・・。休みもなく寝る時間も削って仕事したのに、なぜか独立前よりも手取りが低いことが続いてしまう。そんな話を何度も聞いてきました。利益を残すためには利益計画をしっかりと作り上げることが重要!
理想の数字を入れていくだけでいいんです。後からいくらでも修正すれば良い!
*月刊目標売上=1日の想定売り上げ✕営業日数。
*毎月の支払い=家賃、人件費、返済、雑費、光熱費などの合計
*材料費=原材料、食材、包材などの合計。
まずは、最低限必要な数字を抑えて、1年計画をわかりやすく簡単なものから作成していきましょう!一度できあがったら、その数字は、理想通り?現実的で可能?と再考することで煮詰めていきます。
・店舗デザイン
同じ商品、サービスを提供しても、外観や内装の違いで、集客や客単価に大きな違いが出ます。
良い外観、良い内装にはお客様を引き寄せる力があるので実は、店舗デザインはとてもコスパがいいんです。
売上以外にも集客コスト、採用コストが低くなるなど、大きな効果があります。はじめにしっかりと作り込んでスタートできれば、本当に大きな力となってくれます。
では、良いデザインとは一体何でしょう?
「誰かに伝えたいと思うかどうか?」
「楽しい気持ちになるか?」
「何度も来たいと思うか」
だと考えます。
クラシックなデザイン、カラフルなデザイン、高級感のあるデザインなど、デザインに正解はありません。独立開業となるとオーナーの趣向が最優先されることもよくあります。
最終的な調整や、デザインはプロの店舗デザイナーなどの専門家に任せることになると思いますが、基本となるお店のイメージや参考資料などは、たくさん集めて用意してください!
たくさんの資料を集めているうちに自分たちだけの想いがより目に見える形となり、プロのデザイナーが形にしてくれるのです。どんなにキレイなデザインに仕上がっても、お客様や働く人が楽しい気持ちにならなければ、長く愛されるお店にはなりません。自分たちが楽しくなるお店のデザインを考えていきましょう!
・商品ラインナップ
売れる商品ラインナップはどのように決めていけばいいのか。
お客様に愛されるお店作りに欠かせない商品ラインナップの考え方をお伝えします。
まず、「定番商品」「収益が高い利益商品」「人気集客商品」「オンリーワン商品」の4つの役割を押さえましょう。
-定番商品は、初めてのお客様でも安心して買いたいと思う商品
-収益が高い利益商品は、利益率の高い儲かる商品
-人気集客商品は、マグネット商品とも呼ばれる低価格やお買い得商品
-オンリーワン商品は、そのお店でしか購入できない完全独自化の商品
この4つのバランスをどう組みあげていくのかが、商品ラインナップづくりの醍醐味、重要ポイントです。このバランスはコンセプトに沿って決めていくことが一般的ですが、まずは、提供したいメニュー、商品を書き出して、その1品ごとに、それがどんな役割の商品なのか当てはめていきましょう。1つの商品に1つの役割だけでなく、複数のの役割を持つこともあります。
・ファッション・流行
ケーキ屋、カフェ、スイーツ店をやるなら「ファッション」前提でオシャレなのは当たり前。食べ物、飲み物が美味しいのも当たり前。流行もあるけれど、好きなものに時間やお金を使いたいところから、始まってるので今、まさにケーキ屋、カフェ、スイーツ店は、ファッションの最先端にあるんです。
だからこそ、まず大切にしたいのは、オシャレ感。ファッション感。世界観なんです。
これがそのままお店のブランドになっていき、世界観が決まるから、飲み物やフードメニューも決まります。
こだわりのメニューや何が流行るかで計算して始めようとするのは、運に身を任せるのと実は同じこと。大切なのはこだわりではなくて、オーナー、店長の個性、価値観、世界観。
おもてなしの気持ち。感じてもらいたい世界観。その価値観に共感してくれた人たちがファンになってくれます。
一方、最近の流行では、台湾カステラ、バナナジュース、カヌレ、マリトッツォ、バターサンドなどなど、流行っているものは、実は昔からあるスイーツのリニューアルで見た目が新しくなってやってくる。そこから、あたらめて本物というか、元祖、老舗ブランドノイ商品が見直されるという流れ。大まかな流れは、他業種でも起こっていて流れや兆しがあるんです。洋服では、ファストファッション。20年サイクルなど。ゲーム、映画では、シリーズ物。新タイトルよりもなど。
スイーツはファッションなので、ファッション誌やInstagramのトレンドをチェックするのが一番わかりやすい。ファッション誌なら、10冊程度を毎号流し読み。
インスタグラムなら、目に止まったもので良いので20アカウントほど、スイーツ好き、流行り物好きアカウントを流し見。その程度で十分流行を取り入れるセンサーが身につきます。
兆しと流れを意識し、どこにフラグが立っているかを見ていき2週間~1ヶ月の期間限定で参入するなら、ピークで入っても大丈夫ですが、コンビニ参入が終了の合図なので、流行に乗る時期を見誤ってはいけません。今の流行を作っている人たちが、「今何をしているか」に意識を向けることが何より大切です!
材料や商品の仕入れ先と活用方法
材料の仕入れ先は、お店の規模や商材、時期によって以下のとおり使い分けることになると思いますが、商品についてもすべて自分のお店で製造するだけでなく、他社製造商品を選定して仕入れたり、オリジナル菓子をOEM外注することもあります。
・材料の仕入れ先1:専門卸業者
ある程度の売り上げを目指すケーキ屋、カフェ、スイーツ店であれば専門の製菓材料卸問屋さんから仕入れ、毎週決まった曜日に材料を届けてもらいます。メリットはやはり、ほぼ全てのプロ仕様の材料が揃うこと。支払いも月末締めの翌月末払いのところが多いので、資金繰りに余裕ができます。デメリットは、数量が多いこと。ケース単位の仕入れになることもよくあるので材料保管スペースが必要です。
また、売上に関係なく生クリーム、チーズなどの乳製品を使う商品を販売するのであれば、乳製品を取り扱うメーカー、卸問屋さんとの取引は必要です。
・材料の仕入れ先2:製菓材料店舗
季節限定のイベント商品や小さなお店の準備段階など、少量で材料を手に入れたいときには、製菓材料店舗が便利です。有名なのは、富澤商店でしょうか。TOMIZやCUOCAの名前でも知られています。店舗が近くにあれば、プロが使っている材料が少量ですぐに手に入ります。
少量で購入でき、店舗に在庫があれば、すぐに手に入るのがメリットですが、価格が割高になるのがデメリットです。実際に、プロのパティシエやお菓子教室の先生の中にも、定期利用している人は多いです。どれだけ売れるか見えない中で試験販売をするときや、いろいろなメニューの試作をしたり、少量で材料を購入したい場合には、最適です。
・材料の仕入れ先3:ネット通販
この数年で、製菓材料のネット通販サイトも増えてきたので、お菓子教室の先生や、小さなカフェなどは、ほとんどの材料をネット通販で取り寄せています。価格の比較も簡単にできるので、安心です。
メリットは、プロが使っている材料がそのまま全国どこでも手に入る。
デメリットは、送料がかかってしまうこと。材料について詳しい説明がなく、材料の詳細がわかりづらいことです。
材料だけでなく、リボンや箱などの包材を少量小分けで販売してくれるサイトも多く、種類も充実してきたのでプロのカフェ、パティスリーでも定期購入するところも多いです。
・商品の仕入れ先1:専門卸業者
人手不足や工房のキャパシティが目一杯になったり、作らないでメニューを増やしたい場合は、
商品仕入れを考えても良いかもしれませんが、商品をどこから仕入れるか。すごく重要です。
重要なのは、数量、品質、納期の3点。
しかし、この3点だけでも自分たちの望むオーダーに答えてくれる業者さんは少ないです。
そんな時には、専門卸業者さんを検討すると良いでしょう。プロのカフェ、スイーツ店やお土産屋さん向けにスイーツを販売している専門卸業者さんがいます。材料問屋さんの中にも、完成品のスイーツや、焼成前の焼き菓子などを販売しているところも増えてきました。
またネット専門のプロ向けスイーツ卸業者さんも充実した商品構成で和菓子や焼き菓子、季節イベント製品などは、使いやすい商品が増えてきました。
メリットは、自分の店で製造することなく、商品ラインナップを増やすすることができる一方
デメリットは、当然ですが材料から製造するよりも粗利率が低くなります。
・商品の仕入れ先2:OEMによる外注
「自分たちの商品が売れすぎてこれ以上作れない!」
「工場を持たないので、どこか自分たちの商品を作って欲しい。」
そんな時はOEM外注の出番です。
一番多いケースは、「レシピのある既存商品の製造委託」です。
メリットは、大きな工房設備投資がなく商品を製造できること。
デメリットは、どうしてもオリジナルとは同じにならないこと。
また、一度の製造ロットが決まっており、工場の忙しさにより納期も変わりますので事前に製造委託できる条件を詰めておくことが必要です。
特に注意すべき点で、スイーツ業界がアパレルや雑貨と大きく違う点は、スイーツには賞味期限がありますので、OEM外注する場合、しっかりとした販売計画が必要不可欠です。
お菓子の売れる時期が知りたい方はこちら!
まとめ
ケーキ屋、パティスリー、カフェなどのスイーツ店を開業する際、さまざまなハードルがありますが、自分の世界観を実現すべく楽しみながら取り組んでいってほしいと思います。コンセプトから事業計画、はじめての材料仕入や工事業者との実務的なやりとりなど開業のサポート・コンサルも行っておりますので、希望される方はまず「なごみや」にご相談ください。